野茂英雄が引退を表明したという。近鉄入りした1989年以来、そしてLAドジャーズへ渡った1995年以来、野茂が僕らに与えてくれたものを、僕らははっきりと理解しているだろうか。『コミック・キュー』の第1号だったか2号だったか、安達哲が荒んだ青年の心理雑記風の短編を書いていて、その中に、新宿アルタの巨大スクリーンに映し出された野茂のニュース映像を見上げた主人公が「ノモ……」とつぶやくシーンがある(この話は、たぶん単行本には入っていないと思う)。真島昌利は「こんなもんじゃない」という壮絶な曲で、<知ったかぶりで得意になって/心に風も吹きゃしない>と歌ったけれど、僕にとって野茂はいつも夏の一陣の風だった。
『僕のトルネード戦記』のなかで、野茂は自分の得意球であるフォークについて、<わかっていたって打てるもんじゃない、そんなヤワな球じゃないんですよ>と語っている。ずっと前、とんねるずの石橋貴明が野茂との会話について喋っていた。あるとき、野茂に「俺たちよりも面白いコメディアンはたくさんいたが、俺たちが成功したのはラッキーだった。正直、君も運が良かったと思うでしょ」といった意味のことをいったら、野茂は気色ばんで、「違いますよ石橋さん、実力ですよ」と切り返したという。僕もいつか、そんな台詞を言ってみたい。